クーポラだよりNo.58~アオアズマヤドリの求愛と年越しに向けて~


ニワシドリの仲間のアオアズマヤドリは、鮮やかな青色が大好きな野鳥です。



アオアズマヤドリを含むニワシドリたちは、オスが求愛のために、面白い行動をとります。



ニワシドリのオスたちは、「ニワシ=庭師」の名の通り、ガーデニングをして、美しい東屋(あずまや)をつくります。



オスが東屋をつくる目的は、子育てのための巣ではなく、メスに、プロポーズをするためだけです。



東屋の材料は、小枝や枯れ草です。



オスは、気に入った小枝をみつけると、建材として使いやすいように、くちばしで、好みの長さに折り、不要な枝は切り取り、見つけたその場で、小枝を加工し、持ち帰ります。



東屋は、アーチ状のものから、海辺のオープンカフェのような複雑な構造物まで、いろいろなタイプがありますが、彼らにとって大切なことは、メスの目に、触れやすい場所に、建てることです。



くちばしを器用に使い、柱にする枝は、地面にしっかりとつきさして、枯れ草は、編むように使い、だ液で湿らせながら、建材を曲げて、曲線状の東屋をつくっていきます。



舞台セットのように、東屋(あずまや)の周りには、花や、貝殻や、昆虫の殻などを、綺麗に並べて、飾り付けをします。



飾りは、白いものばかりを集める鳥や、葉っぱを、ぜんぶ裏向きにして、じゅうたんのように敷き詰める鳥など、ニワシドリの種類によって、こだわりや好みの色が違います。



アオアズマヤドリのオスは、飾りに青い色だけを使います。



アオアズマヤドリのオスとメスは、身体の色も、羽の模様も、違いますが、どちらも、瞳の色だけは、ラピスラズリのように、鮮やかな青色です。



その高貴な宝石のような青い瞳と、同じ色の飾りを求めて、ときには、人間の住む街まで、

姿をあらわし、危険をおかしてまでも、オスは、鮮やかな青色を集めて回ります。



ペットボトルの青い蓋、青いストロー、青い花びらと、得心のゆくまで、青色を集めてくると、今度は、東屋の周りに、センス良く敷き詰めて、プロポーズの舞台を整えます。



青の舞台が出来上がると、今度は、求愛ダンスと歌のおけいこが始まります。



オスは、お気に入りの、青い飾りを、ひとつ選びだし、くちばしにくわえて、ギューッ、ギューッと、弦楽器の低い響きのような声で、歌いつつ、両の翼を、笠のように広げ、上下にバウンスしながら踊ります。



広げた両の翼を、頭上高くもちあげて、顔を隠しながら、踊るようすは、まるで歌舞伎の女形役者が、きらびやかな衣装の振袖で、顔を隠しながら、妖艶に踊る、誘惑的な舞いを、思わせます。



そして、ポパイように大きく胸を膨らませ、胸の中心の青い羽毛をたたせると、鮮やかな青色に太陽の光が反射して、胸のあたりだけが、青く光輝く瞬間は、やはり歌舞伎役者の衣装の早替えのようで、とても魅力的です。



また、定点で踊り続けず、東屋の周りを、瞬間的に移動して、相手の意表をついた動きを、しています。



メスが、いつやってきても、ベストな動きができるように、オスは、この一連の踊りと歌を、毎日、暇さえあれば、お稽古しています。



また、東屋の手入れと見張りも怠りません。



というのも、ライバルのオスが、飾りを盗んだり、悪質なものだと、製作者がいない隙(すき)をねらって、せっかく作った東屋を、ぶち壊していくからです。



踊りが上手で、立派な東屋が作れて、たくさんの青い飾りを綺麗に並べることができるオスほど、メスに気に入られる確率が高いのです。



恋の季節になると、メスは、青い東屋をみつけると、東屋がよく見える枝まで、降りてきます。



東屋の出来栄えが、粗末だったり、青い飾りが少ないと、メスは、ちらっと見ただけで、すぐに飛び去って、別のオスのところへ、行ってしまいます。



東屋が好みだと、メスは、枝から降りてきて、青い飾りの配置をチェックし、自分流に、置き直したりしながら、東屋の中まで入ってきます。



その様子をみていたオスは、すかさず踊りはじます。



青い飾りをくわえて、ギューギューと、不思議な声で歌いながら、メスが入っている東屋のまわりを、ストリップダンスのように、視界に入ったり、消えたりしながら、青い胸の羽毛をちらつかせ、両の翼を広げて、笠小僧のような格好で、踊り回ります。



ずっと同じポーズを見せ続けるよりは、魅力的な部分は、チラッと見せる方が、恋人の気を惹くのは、人間も鳥も同じです。



メスが、踊りまで気に入って、合格の合図を出すと、ようやく結婚となります。



結婚したら、アオアズマヤドリのメスは、抱卵も子育ても、単独で行います。



オスは、子育てに、参加せずに、次の恋に向けて、踊りのおけいこと、豪華な東屋つくりと、青いもの集めに、さらに精を出します。



芸術的な感覚が優れたオスだけが、子孫を残せるとは、なんと優雅な人生の鳥でしょう。



アオアズマヤドリが住むのは、南半球のオーストリアやニューギニアの暖かい森林で、年中、食べ物は豊富にあり、恐ろしい天敵もいないので、生きていくことに、余裕があるのです。



アオアズマヤドリのオスは、東屋つくりをマスターし、優秀な踊り手になって、メスに気に入られて、子孫をのこせるまでには、何年もかかり、若鳥のときは、ベテランのオスをお手本にして、技を盗み、修行を重ねますが、寿命が長いので問題ありません。



アオアズマヤドリの生態を見ていると、人間の歴史を思わずにはいられません。



戦いや飢饉や災害が続き、食べるものが不足し、誰もが、米やパンのためだけに、生きていかねばならない時代は、社会は秩序を失い、芸術や文化は荒廃します。



けれど、江戸の元禄時代のように、鎖国をし、たとえ海外との交流がわずかでも、世の中が平和ならば、広重や北斎などの絵師たちは、ゴッホやモネら西洋の画家たちが驚愕するほどの作品を仕上げ、町人の子供たちは寺子屋で字を習い、おかげで国民は、世界レベルでも高い識字率に達し、家庭には礼節がありました。



自然界の鳥たちや、歴史を勉強していると、こうして私が文を書き、音楽を続けられるのも、空気のようになった今現在の平和な時代に、生きていればこそと思えるのです。



夫のために、正月料理をつくれない境遇を嘆くより、アオアズマヤドリのオスのように、

自分の時間をすべて、芸術と学問に使える幸せに感謝し、新しい年を迎えようと思います。



令和1年12月29日

大江利子

クーポラだより

幼い頃から、歌とピアノが大好き! ピアノを習いたくて、習いたくて.・・・。 念願かなって、ピアノを習い始めたのは、13歳。ピアノを猛練習し、 高校も大学も音楽科へ。就職も、学校の音楽の先生。夫、大江完との出会い。 イタリア留学。スカラ座の花形歌手、カヴァッリ先生の教え。33歳から始めたバレエ。 音楽が、もたらしてくれた、たくさんの出会いと、喜びを綴ったのが、クーポラだよりです。

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