クーポラだよりNo.126~大人バレエとオヤジストレッチクラス~


バレエを始めたのは32歳、1995年9月からなので、今年9月で、バレエ歴30年となります。


今でこそ、大人リーナという言葉ができて、大人からバレエを始めることは珍しくないことですが30年前は、大変珍しいことでした。


32歳からバレエを始めようと思ったきっかけは、イタリア留学時代に知り合ったアレクサというドイツ女性の一言です。


1994年、アレクサは、私と同じようにオペラ歌手を目指し、カヴァッリ先生のレッスンを受けるため、数か月に1度、国際列車を使って、ドイツからミラノまでやってきていました。


アレクサはオペラ歌手志望にしては、庶民的で人懐こく、彼女と私はお互い片言のイタリア語で、女子トークに花を咲かせたものです。


「カヴァッリ先生って、年齢の割にはお肌がきれいよね」とか、「今、練習しているアリアはカヴァッリ先生が選んでくれたけど、あまり好きじゃないの」とか。


アレクサはドイツ南部の街、カールスルーエの音楽院でオペラを学んだ人です。


ある日、アレクサは私に尋ました。


トシコ ペルケ ノン ファイ バレエット?(Toshiko,Perche non fai ballet? )


利子はなぜバレエをやらないの?


唐突なアレクサの質問に驚いた私は質問で答えました。


エ トゥ アレクサ、ファイ バレエット? (E tu Alexsa, fai ballet ?)


アレクサ、あなた、バレエするの?


すると、アレクサはきっぱりと言いました。


ナトゥラルメンテ! ノストロ コンセルヴァトーリォ カールスルーエ、トゥッティ ストゥデンテッセ カンタンティ インパーラノ バレット (Naturalmaente ! nostro conservatorio Karlsruhe tutti sutudentesse cantanti imaparano ballet)


当たり前よ!カールスルーエ音楽院で歌手を目指す女子学生は全員バレエを習うのよ!


アレクサはさらに続けました。


舞台に立つオペラ歌手にとって、バレエのトレーニングは必須なのだと。


それを聞いた私は、絶対にバレエを習わなくては!と固く心に誓い、帰国後2年目、バレエ教室の門を叩きました。


帰国後すぐに始めなかったのは、あまりにも身体が固かったので、まずはヨガ教室で自分の身体を柔らかくしようと思ったからです。


一刻も早くバレエを始めたいと、はやる心を抑えながら、週3回、ヨガ教室に通ってストレッチに励みました。


すぐには柔軟な身体になりませんでしたが、セルフストレッチの基本だけは覚えて、一年後、バレエ教室に通うことにしました。


バレエ教室では、中高生や、小学生、時には、幼稚園の子供たちとも混ざって、初歩からお稽古をしました。


バレエを習う子供たちは、生まれつき身体が柔らかく、苦労せずとも180度開脚ができるという先入観がありましたが、実際はそうではなく、子供たちも日々努力をして開脚していました。


稀に努力せずとも180度開脚できる天賦の才能を与えられた少女もいますが、そういうケースは非常に珍しいのです。


美しい音楽にあわせてプロのバレリーナのように滑らかに踊れるようになるには、身体の隅々まで柔軟でなくてはなりません。


どこか1箇所でも、固いところが残っていると、ぎこちなくギクシャクとした踊りになってしまうので、毎日掃除をするように自分の身体の固いところを見つけて、ストレッチしていくことがバレエ上達の一番の近道なのです。


180度開脚なんて、30歳を過ぎた私には不可能に等しいと思っていましたが、毎日ストレッチをしていると、4,5年経ったある日、突然、ぺったりとカエル足ができるようになり、還暦を過ぎた今でも少しずつ柔軟性は広がっています。


身体が柔らかくなると、良いことがたくさんあります。


まずは踊りやすくなり、声も出やすく、ピアノを弾く手も柔らかくなり、今まで指が広がらず弾けなかった難しい曲も弾けるようになりました。


バレエを始める以前は、風邪をひきやすく虚弱体質だったのに、風邪をひかず医者要らずとなりました。


バレエでは、開脚だけでなく、ブリッジができることも必須ですが、ブリッジもできるようになったおかげで、猫背も反り腰も矯正でき、白髪が増えて銀髪になりはしたものの、背骨をすっと真っ直ぐ立てて、歩くことができるので、若々しいとよく言われます。


そんな私を見て、ストレッチを教えて欲しいと要望が出て、特別クラスを開講することにしました。

生徒さんは70代の男性ふたり、ひとりは飛行機を丸ごと全部お一人で設計できる方で、もう一人は、昔ながらの木造工法で家を建てることができる大工さんです。


お二方とも、ものづくりのスペシャリストで、令和の現在では希少な人材です。


お二方とも、やりたいことはたくさんあるのに、身体に痛い箇所があり、やる気にブレーキがかかるとのことでした。

今年2025年3月から月に3度の割合で、オヤジストレッチクラスを開講して半年となりますが、お二方とも身体の調子が大変良いとのことです。


自らストレッチをやりたいと言われたお二方だけあって、受講態度は真剣そのものです。


そんなお二方を見ていると、大切にとっておいた古いバレエ雑誌のある記事を思い出しました。


それはペンシルロケットで著名な糸川英夫博士の記事です。


記事には、シュスのポーズ(踵をあげたまま両足を揃えて立つこと)レッスンに励む67歳の博士の写真があります。


糸川博士は還暦からバレエを始めたそうですが、きっかけはわかりません。


けれど7年も続けておられるということは、還暦過ぎてもアクティブに活動する必須アイテムだったのではないでしょうか。


2025年8月29日

大江利子

クーポラだより

幼い頃から、歌とピアノが大好き! ピアノを習いたくて、習いたくて.・・・。 念願かなって、ピアノを習い始めたのは、13歳。ピアノを猛練習し、 高校も大学も音楽科へ。就職も、学校の音楽の先生。夫、大江完との出会い。 イタリア留学。スカラ座の花形歌手、カヴァッリ先生の教え。33歳から始めたバレエ。 音楽が、もたらしてくれた、たくさんの出会いと、喜びを綴ったのが、クーポラだよりです。

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