クーポラだよりNo.116~6度目の完走~
6年前の2019年から年に1度のオートバイラリーに参加しています。
ラリーの名前はサンライズ・サンセット・ツーリング・ラリー、略してSSTRという愛称で親しまれています。
このラリーのルールはその名前が示すように、日の出とともにスタートし、同日の日没までにゴールします。
スタート地点は、太平洋側の海辺(瀬戸内海も可)なら、
日本列島どこでも可、ただしゴールは石川県羽咋市の千里浜海岸です。
私は岡山市児島湾沿いの港から毎年スタートします。
なぜ児島湾沿いかというと、自宅から近いし、週末にオートバイで走るお決まりコースでもあるからです。
二輪免許は52歳で取得し早9年になりますが、オートバイに乗る前はいつも不安でいっぱいになります。
ただし、いったん走り出すと、爽快感に包まれて恐怖感は薄れます。
けれど恐怖がすべて消え去るわけではなく、お決まりコースの景色や路面の状態、信号もカーブも標識もすべてを記憶し、走り方に余裕があるだけで、心の片隅には、今日こそ事故に遭うかもしれないという想いを抱きつつ、オートバイのアクセルを握っています。
SSTRの時も同じです。
児島湾から千里浜海岸までの距離500キロ、毎年同じルートを選択し、高速道路のジャンクションも、サービスエリアも記憶して、突発的なハプニングを覚悟しつつラリーに臨みます。
スタートの港から、まず目指すのは、日本のエーゲ海と呼ばれる美しい瀬戸内海沿いの自動車専用道路、岡山ブルーラインの途中に併設された道の駅一本松です。
ここにはミニSLが走る鉄道公園や岡山県特産の野菜や果物の直売所がありますが、ラリーで立ち寄る時はいつも、6時過ぎか7時前なので、人の気配はありません。
今年は7時ジャスト、お天気は快晴、ややひんやりとした朝の空気が爽やかです。
スタートからまだ37キロ、残りあと463キロ、ゴールまでは途方もなく遠い気がしますが、あまりそのことは考えないようにします。
残り全部の距離を思うと、あまりの遠さにやる気がそがれるからです。
私のラリーに対する作戦は、連続50分走行したら、休憩10分です。
時速80キロで50分走れば、距離67キロ進めます、時速60キロなら距離50キロです。
つまり時速60キロ以上で50分走り、休憩10分という単位を、10回繰り返せば、10時間後には、自然に500キロ先のゴールにくるはずです。
「今走っている50分間に集中し、安全確実に走ろう!」と自分に言い聞かせつつ、アクセルを握ります。
10分の休憩は携行食として甘いパンやおにぎりを持参しているので、一口だけかじります。
お腹いっぱい食べると、眠くなり危険なので、空腹を紛らわす程度にとどめます。
岡山ブルーラインを終点まで走ると、山陽自動車道に上り、童謡「赤とんぼ」の作詞者三木露風の生まれた兵庫県龍野市のサービスエリア、龍野西で給油休憩です。
私がラリーに使うのは、スズキのボルティで排気量250㏄の小さなオートバイです。
ボルティは非力な私でも取り回しが楽で、とても気に入っているのですが、難点はガソリンタンク容量が少なく、満タンで12リットルしか入りません。
燃費は1リットルにつき平均27~28キロ、上手に走ると30キロ近く走ります。
単純計算すると1回の満タンで、300キロを走れますが、燃料切れの警告ランプは無いので、給油のたびに距離メーターを0にもどし、早め早めに給油して、ガス欠を防ぎます。
龍野西を出ると、姫路から播但道経由で舞鶴若狭自動車道に乗り、舞鶴を目指して、一気に北上します。
なぜ一気かというと、播但道と舞鶴若狭道は道幅が狭い上に、片側一車線が多く非常に緊張するからです。
制限速度で走る私の後ろについている普通車が、追い越し禁止にもかかわらず、ボルティの横ギリギリを、すり抜けるように追い抜いていくことが時々あります。
そんな時は、とても肝を冷やします。追い越されるときの風圧でオートバイごと押されるし、その恐怖で集中力がそがれてしまうからです。
集中力が落ちたときは、事故に遭いやすいので、車が横をすり抜けても、努めて平常心を保ちます。
午前中に舞鶴まで行けたら、ラリーは半分成功です。
今年は11時過ぎに舞鶴を通過し、少し先の福井県小浜市の加斗(かど)パーキングエリアで休憩しました。
加斗パーキングエリアは必要設備が最低限しかない狭くてコンパクトな休憩所です。
土産物屋も食堂もなく、トイレと自販機のみで、休憩にやってくる車が少なく、駐車スペースはガラガラで駐車白線が目立ち、寂しいようですが、オートバイには好都合なのです。
設備の充実した休憩所の方が、楽しく便利に思えますが、オートバイには困ることの方が多いです。
レストランや充実した土産物屋、広いドッグランまで備えたような、人気のサービスエリアは、広大な敷地を確保しなければならないので、高速道路本線からはとても遠く、長く曲がりくねったアプローチを走り抜けなければなりません。
そして長いアプローチのあと、ようやくエリア内にたどり着いたら、駐車した車と車の間から子供の飛び出しなどに気をつけながら、一番奥にある二輪スペースを探さなければならず、休憩したくて、サービスエリアに入ったのに、逆に疲れが増してしまいます。
そんな理由で、人気の少ないパーキングエリアを選びながら、50分ごとに休憩を取りつつ、北陸自動車道をひたすら北上します。
全身に風を受けながら北へ北へとひたすらに走っていると、北帰行する渡り鳥になったような気分です。
孤独だけれど、疲れるけれど、ラリーで走っている瞬間は何もかも忘れています。
スタートするまでは、61歳になった自分でも、ゴールまで走れるだろうかと不安ですが、いざラリーが始まると走ることにだけ集中し、年齢のことなんてどこかへ飛んでいきます。
この感覚は、人前で演奏している時と似ています。
試験でも、発表会でもコンサートでも、人前で演奏するときは、やり直しはありません。
何度も何度も同じ曲を練習してきたけれど、緊張でミスをするかもしれないし、最悪、途中で途切れてしまうかもしれないと、演奏を始める前は恐怖ですが、いざ始めてしまうと、曲に集中しています。
曲に集中できるかどうかは、普段のどれだけ練習し、曲を覚えているかどうかにも比例します。
今年令和6年、6度目のラリー挑戦のためにオートバイに乗る回数は以前よりは減ったけれど、それでも週末ごとに距離50~60キロ走りました。
そのかいあってか、スタートから10時間20分後、午後4時16分、私とボルティは無事にゴールの千里浜海岸に着きました。
水平線が朱色に染まり始めた日本海は、何度眺めても雄大で感無量です。
その景色を眺めながら来年もまたゴールできるように、元気でいようと思った私です。
2024年10月29日
大江利子
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