クーポラだより No.21 ~スカーレットのようなドレスと立体的な音~


懐かしい洋画を見ておりますと、豪華な、ドレスに目を奪われます。


ハリウッド映画の名作「風と共に去りぬ」で、主人公のスカーレットのドレスを見て、憧れたものでした。


裾は、満開の花びらのように、大きく広がり、美しい白い肌が見えるように、胸元だけは、大きく開いた、魅力的な、ドレス。


フランス人形が、着ているような、裾が、床まで届く、広がったドレスが、とても、素敵でした。



音楽大学の学生時代、私は、演奏会の衣装に、頭を悩ませておりました。


音大生は、しばしば、演奏会に出演する機会が与えられました。


ピアノ伴奏や、合唱で出演する時の衣装は、白いブラウス、黒ロングスカートで良いのですが、自分が、ソロ演奏の時は、皆、スカーレットのような、ドレスを着ていました。


私は、奨学金を借りるほどの、貧乏学生でしたので、ドレスは持っていませんでした。


演奏会には、知人の、お下がりのワンピースなどで、出演していました。


しかし、音大生、最後の演奏会には、スカーレットのような、ドレスを着たくて、自分で、作ることにしました。


私はまず、ウェディングドレスの型紙が載っている本を買いました。


自分の身体をメジャーで測り、型紙の寸法を、自分用に計算しなおし、新聞紙で、型紙を作りました。ミシンは、アルバイト先の喫茶店から、お借りしました。


ドレスは、専用の布で、作ります。


裾まで大きく広がったドレスにするためには、「張り」がある布でなければなりません。


また、舞台の上で、スポットライトが当たった時に光らねばならないので光沢も必要です。


「タフタ」と呼ばれる生地が、ドレス用に適していることを知ったのは、この時です。


しかし、「タフタ」は、とても、高価な生地でした。


たった1メートルの「タフタ」が、数千円も、しました。


スカーレットのような、ドレスには、生地が、最低でも、10メートルは、必要です。


貧乏学生に、10メートルも高価な「タフタ」を買うことは、出来ません。


困った私は、裏地に、目を付けました。裏地用の生地なら、1メートルで、数百円です。


裏地生地の中でも、光沢があり、濃い目の色を、見つけ、買って帰りました。


6畳ひと間の狭い下宿で、苦労して裏地生地に新聞紙の型紙を広げて、裁断していきました。


裏地は、滑りやすい生地なので、待ち針を留めていても、すぐに、ずれてしまいます。


慎重に、ハサミを使いました。裁断のあと、仮縫いし、本縫いに、入りました。


毎晩、お稽古が終わってから、ミシンと格闘し、1ヵ月後には、スカーレットのようなドレスができ上がりました。


(私が大学時代に作った、裏地のドレス)↓


出来上がったドレスを、見て、私は、不思議な感動を、覚えました。


10メートルの一枚の布が、立体的な、造形へと、変化したからです。


背が高い私に、ピッタリ合わせて、作ったそのドレスは、私が着ていなくても、私の体型を想像させました。


着てみると、ドレスなのに、とても、動きやすくて、驚きました。


10メートルの一枚の布の時は、重さを感じた布が、ドレスになり、身に付けると、

重さを感じません。


洋裁の技術は、動きやすい服を、作ることなのだと、改めて、実感しました。


日本の着物を作る、和裁は、洋裁とは、反対です。


反物(たんもの)と呼ばれる、幅が70センチくらいの、細長い布から、着物を作ります。


着物は、個人の寸法に合わせては、作りません。


着付けの段階で、紐(ひも)を使って「おはしょり」で、丈(たけ)の長さを調節するだけです。


着物は、洋服のように、ボタンがないので、紐をたくさん使って、身体に巻き付けた着物が、着崩れないようにします。


ヨーロッパも、ローマ時代には、着物のように、身体に布を巻き付け、紐で、留めていました。


しかし、東西の流通が、盛んだったヨーロッパでは、珍しいものがあると、取り入れてきました。


13世紀、ボタンが、ヨーロッパにやってくると、仕立ての技術は、飛躍的に進歩しました。


当時、イタリアでは、騎士が身に付ける、鎧(よろい)を作っていました。


鎧(よろい)の下に着る、アンダーウエアも、イタリアで、工夫されました。


ボタンを使って、身体に、ピッタリした、動きやすい服を追求した結果、立体的な、服が出来上がりました。


立体的な、服を作る技術が、ヨーロッパに、浸透し始めたころ、ヨーロッパの音楽も、進歩しました。


楽譜によって、音の高さを、正しく記録できるようになったので、高さの違う音を、同時に、演奏する、「和音」の面白さに、気がつきました。


日本の伝統音楽には、「和音」はありません。


ヨーロッパの人は、和音を綺麗に響かせるには、音の響きが、洋服のように、立体的な方が良い、と、気がつきました。


音のまわりには、ギャザーがたくさん入った、優雅なドレスのように、響(ひびき)のスカートが、必要なのです。


ヨーロッパで生まれた、ベルカントの歌声は、立体的な、響(ひびき)をもつ、歌声なのです。


~つづく~

2016年11月29日

大江利子

クーポラだより

幼い頃から、歌とピアノが大好き! ピアノを習いたくて、習いたくて.・・・。 念願かなって、ピアノを習い始めたのは、13歳。ピアノを猛練習し、 高校も大学も音楽科へ。就職も、学校の音楽の先生。夫、大江完との出会い。 イタリア留学。スカラ座の花形歌手、カヴァッリ先生の教え。33歳から始めたバレエ。 音楽が、もたらしてくれた、たくさんの出会いと、喜びを綴ったのが、クーポラだよりです。

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