クーポラだより No.19 ~厳島(いつくしま)神社とシスティーナ礼拝堂~


日本各地には、神社が、10万社以上あるそうです。


神社は、四国の金毘羅宮(こんぴらぐう)のように、石段をいくつも、登らなければ、拝殿(はいでん)出来ないものや、出雲大社のように、日本書紀にも登場するほど、歴史があるものなど、さまざまです。


しかし、大部分の神社は、人々の集落に、寄り添うように建てられ、親しみやすい存在です。


鳥居をくぐり、神社の敷地に、足を踏み入れると、大きな木々が、緑豊かな枝を広げ、迎えてくれます。


木々の枝からは、小鳥のさえずりが聞こえ、境内(けいだい)を吹き渡る、すがすがしい風が、心地良さを、いっそう誘います。


手水(ちょうず)で、身を清め、参道を歩いていくうちに、世事(せじ)で、ささくれていた心は、落ち着きを取り戻し、拝殿の前で、両手を合わせる頃には、自分と、向き合う勇気が、沸いてくるものです。


日本人は、四季折々、人生の節目、何か区切りをつけたい時には、神社に参り、心の中で、神様と、対話をし、次の一歩を、踏み出してきたのです。


神社の建物は、木造建築で、屋根は、背表紙を上にした本を、広げたような形の、大屋根がのっかった、平屋(ひらや)です。


木造建築を長い間、美しく保ち続けるには、修復が必要です。


修復には、たくさんの費用が、かかります。


国を左右するほど、政治的に、重要な神社には、時代の権力者が、人心をつかむために、たくさんの費用をかけ、修復してきました。


瀬戸内海に浮かぶ宮島には、世界遺産にも登録されている、厳島神社(いつくしま)があります。


厳島神社は、遠浅(とおあさ)の海の中に建てられ、その鳥居は、引き潮の時でなければ、歩いては行けません。


祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声

諸行無常(しょぎょうむじょう)の響きあり

沙羅双樹(しゃらそうじゅ)の花の色

盛者必衰(じょうしゃひっすい)のことわりをあらわす


平家一門(へいけいちもん)の栄華(えいが)と盛衰(せいすい)を、うたいあげた平家物語の有名な冒頭の詞です。


この平家物語の中心人物は、平清盛(たいらのきよもり)です。


平安時代、低い武士の身分から、最高権力者の太政大臣(だじょうだいじん)にのぼりつめた平清盛が、厳島神社を、現在の美しい姿に変えたのです。


厳島神社は、満ち潮の時には、境内の地面は、海に沈むので、建物と建物の往来のために、美しい渡り廊下(ろうか)が巡らせてあります。


遠くから海に浮かんだ厳島神社を眺めると、人工の建造物なのに、大自然に溶け込み、まるで、タンチョウが大きな羽を、左右、横いっぱいに、広げているようです。


横へ、横へと、鳥の翼のように広がりを感じさせる、厳島神社の、美しさは、日本の神社建築の特徴です。


舞(まい)の時に使う、扇の形のように、日本人は、横へ、横への、すえひろがりの形が、大好きなのです。


オペラが生まれたヨーロッパでは、教会が、神社と、同じような役割をします。


ヨーロッパでは、どんなに小さな街にも、教会があり、人々の暮らしの精神面を支えています。


そして、やはり、政治的に、重要な教会ほど、時代の権力者が、芸術家たちに、腕を振るわせ、厳島神社(いつくしまじんじゃ)のように、美術的にも、価値のある、素晴らしい教会にしていきました。


イタリア、ローマ、バチカン市国の、サン・ピエトロ大聖堂の、システィーナ礼拝堂には、素晴らしい天井画が、描かれています。


描いたのは、イタリア・ルネサンスの天才彫刻家ミケランジェロです。


ミケランジェロに天井画を依頼したのは、キリスト教で、最も身分の高い人、ローマ教皇です。


ミケランジェロは、壁の漆喰(しっくい)が、生乾きのうちに、直接、絵具を染み込ませる、フレスコという特別な方法で、描きました。


フレスコ画は、手間が、かかりますが、色褪(あ)せる、ことはありません。


壁に深く絵具が浸透しているので、絵が汚れで、くすんできたら、しっくい壁の表面を少し削れば、また、鮮やかな、描きたての状態に、戻るのです。


教会の屋根はドームになっていて、その裏側の天井は、大空のように、球面です。


ミケランジェロの天井画の題材は、天地創造です。


ミケランジェロの天井画を下から見上げると、空のかなたの、雲の上の天国を、見ているようです。


日本の神様は、山や河、木々と、身近な自然の中に、いらっしゃいますが、ヨーロッパの神様は、空の高いところに、いらっしゃるので、神様と、対話をする建物には、高さが必要なのです。


教会では、お祈りに、旋律をつけ、合唱にして、歌います。


お祈りの歌声が、高く、高く、のぼり、のぼった歌声が、天井に届いて、反響し、教会内部全体に、響きわたるような、発声法が、工夫されました。


そして、その高く、のぼっていき、建物の反響を利用する発声法が、オペラのベルカント唱法の基礎となっていったのです。


~つづく~

2016年9月29日

大江利子

クーポラだより

幼い頃から、歌とピアノが大好き! ピアノを習いたくて、習いたくて.・・・。 念願かなって、ピアノを習い始めたのは、13歳。ピアノを猛練習し、 高校も大学も音楽科へ。就職も、学校の音楽の先生。夫、大江完との出会い。 イタリア留学。スカラ座の花形歌手、カヴァッリ先生の教え。33歳から始めたバレエ。 音楽が、もたらしてくれた、たくさんの出会いと、喜びを綴ったのが、クーポラだよりです。

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