クーポラだより No.18 ~ベルサイユ宮殿の庭と響きの芯の位置~
インターネットが普及したおかげで、見知らぬ土地でも、迷わなくなりました。
目的地の住所さえわかれば、瞬時にパソコンや、スマートフォンが、地図上の正しい位置を教えてくれます。
ドライブも、カーナビが、最適な道順を、教えてくれるので、安心して、運転できます。
カーナビも、インターネットもなかったころ、訪れたことのない、新しい場所へ、住所だけで、たどり着くのは、大変でした。
日本の住所の番地は、不規則です。
大都市の区画整理された中心街は、別として、田舎では、番地の数字の順番通りに建物がありません。
事前に目的地までの、目印や、道順を、よく調べておかないと、さんざん迷って、たどり着けなかった、ということもありました。
しかし、イタリアでは、そんな心配は、無用です。
見知らぬ土地でも、たとえ言葉が、わからなくても、地図さえあれば、目的地に、たどり着くことが、できるのです。
なぜ、そんなことが、可能なのでしょうか?
それは、街のどんなに細く、短い路地にでも、名前があり、建物は、道に面して、整然と建てられ、左右対称に、数字がつけられているからです。
数字は、道の面の一方の建物は、奇数、もう一方の面の建物は、偶数と、決められています。
数字は、すべて同じ規格の文字で、薄い金属プレートのレリーフです。
同じ目の高さに、そのレリーフの数字が並んでいるので、一目瞭然です。
また、道路に面した側の建物の窓に、洗濯物を干してもいけないし、日本のように、足つきの巨大な看板を、建物前に設置してもいけないので、そのレリーフ数字がよく見えるのです。
石畳の歩道を、地図を片手に、数字をたどりながら、歩いていくと、必ず目的地にいけるのです。
それでも、迷ったら、「ドゥオーモ」に戻ればよいのです。
街は、「ドゥオーモ」と呼ばれる教会堂を中心に、道路が伸びています。
道路の起発地点の「ドゥオーモ」に戻れば、自分が立っている場所を、見失うことはないのです。
西洋は、番地の数字のように、中心から左右対称が、とても大切です。
フランスのルイ14世が建設した、ベルサイユ宮殿の庭も、見事な左右対称の美しさです。
庭の巨大な噴水を中心に、同じ形に刈り込まれた植木や、花壇が、じゅうたんの模様のように、整然と、美しく広がっています。
ベルサイユ宮殿の美しい庭が、つくられたのと同じ頃、私が住む岡山でも、美しい庭が、つくられました。
後楽園(こうらくえん)です。
後楽園は、日本の三大名園のひとつで、とても、美しい庭園です。
池泉回遊式(ちせんかいゆうしき)と呼ばれる、大名庭園(だいみょうていえん)です。
美しい砂利の小道に案内され、歩をすすめると、鯉が遊ぶ小川、お太鼓の橋、爽やかな竹林、岡山市が見渡せる築山、いい香りの梅園と、庭を一周するだけで、日本の景勝地が楽しめるのです。
この素晴らしい後楽園の美は、左右対称の美では、ありません。
盆栽と同じように、自然そのままの姿を、小さく凝縮させて愛でるのです。
庭の美しさの基準が違うように、やはり歌声の美しさの基準も、違います。
オペラの発声、ベルカント発声も、ベルサイユ宮殿の庭のように、「中心から左右対称」が、とても大切です。
Ni Ni Ni の発声で、作った声の芯を、響きの中心に、しなくてはいけないのです。
また、響きは、必ず、左右対称で、いびつな形でもいけません。
低音も、中音も、高音も、すべて、芯が、真ん中で、響きが、左右対称でなくてはならないのです。
では、具体的に、どう練習するか、といいますと、Niの発声後、母音の、a e i o u で、また、音階練習をするのです。
a とo は、芯を真ん中、響き左右対称が、わかりやすいです。
やっかいなのが、i e u です。
日本語とイタリア語とでは、根本的に、i e u の発音時に使う、口の発声筋肉が違うからです。
わたしは、日本語 i e u の癖をとるのに、とても、苦労したのです。
~つづく~
2016年8月29日
大江利子
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