クーポラだより No.17 ~アルデンテとNi,Ni,Niの発声練習~
日本人の身体の原動力は、お米です。
トースト、コーヒー、季節のフルーツ、オムレツ、野菜サラダ、等、洋風朝食も、美味しいものです。
しかし、味噌汁、ご飯、焼き魚、等の和風朝食の方が、腹持ちもよく、パワーが出る、と私は、感じます。
プロ・テニスプレーヤーで、一度は引退したけれど、37歳で再び、現役復帰した伊達公子選手も、お米の大切を語っていました。
テニスは、マラソンをしながら、チェスをするような、競技だと、言われます。
思考力と持久力が同時に必要な、過酷なテニスの試合には、お米が不可欠だそうです。
伊達公子選手は、テニスの海外遠征時、3キロの重いお米の袋を、持参して行くそうです。
お米の美味しさが、味わえるのは、炊き立て白ご飯です。
ほかほかと湯気がたち、つやつやと光る白ご飯。
噛むと、ほんのり甘く、もっちりとした舌触りの、炊き立て白ご飯は、日本人だからこそ知っている、何よりのご馳走です。
日本のお母さんは、この白いご飯を、芯を残さず、ふっくらと炊き上げます。
イタリアにも、パサパサのインディカ米ではなく、粘りの強い、日本人好みのお米を栽培しています。
北イタリアのミラノ近郊、ロンバルディア平原が、そのお米の産地です。
アルプス山脈を源(みなもと)に、北イタリアを横断し、アドリア海に注ぐ、ポー川流で、美味しいお米が作られているのです。
ミラノの名物料理は、ポー川のお米を使ったリゾットです。
上質なバターで、お米を炒め、美味しいブロードで、コトコトと煮込み、香り豊かなパルミジャーノ・チーズをたっぷりかけた滋味豊かな味わいです。
ザッフェーラノ(サフラン)という高価なハーブで、美しい黄金色に仕上げた、濃厚なリゾットです。
このお料理は、リゾット・アッラ・ミラネーゼと呼ばれます。
リゾットは、見た目は、日本の「おじや」に似ています。
しかし、「おじや」のつもりで口に運ぶと、違和感を覚えます。
日本の「おじや」は、白ご飯よりも、さらに柔らかいものですが、イタリアのリゾットは、「芯」があるのです。
イタリアのマンマは、パスタのように、リゾットのお米にも、「芯」が残るように、調理するのです。
イタリアのパスタの茹で加減は「アル・デンテ」が、鉄則です。
「アル・デンテ」のデンテは、「歯」のことです。
イタリア人は、米も少し「芯」が残り、歯ごたえある茹で加減が、美味しいと、感じるのです。
オペラの発声、ベルカントもパスタのアル・デンテのように、「芯」があることが、とても大切です。
オペラは、セリフを歌いながら、進行させる、お芝居です。
「芯」のない声で歌うと、セリフがもやもやして、何を歌っているのか、聞き取れないのです。
一流と呼ばれるオペラ歌手たちは、豊かな美声でもあるし、明瞭な発音でもあるのです。
この「芯」づくり、特別な練習方法があるのです。
カヴァッリ先生は、その特別な練習方法をご存知でした。
カヴァッリ先生は、「Ni,Ni,Niの発声(に、に、に、のはっせい)」と、呼んでいました。
発声練習は、まず、ハミングから、始めます。
ハミングで、音階練習し、声帯が、目覚めてきたら、「Ni,Ni,Ni」をします。
「Ni,Ni,Ni,」には、特別な表情を作ります。
猫が、威嚇する時の表情に、似ています。
鼻の付け根に皺をよせ、鋭く、強く、短く、「Ni,Ni,Ni」と、発声します。
「Ni,Ni,Ni」で、ハミングと同じような音階練習をします。
効果は絶大ですが、危険も、はらんでいます。
とても声帯を強く刺激する発声法なので、間違った方法で、「Ni,Ni,Ni」を続けると、声を壊してしまいます。
自分の「Ni,Ni,Ni」が正しいか、間違っているか、最初のうちは、判断がつきません。
先生と共同作業で、声を作っていくのです。
自分で声のメンテナンスが出来きるようになるまでには、地道な努力と、時間が必要なのです。
~つづく~
2016年7月29日
大江利子
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