クーポラだより No.81~ラジオ体操とルスカヤ~
このラジオ体操の音楽を聞くと、日本人なら誰でも、それに合わせて身体を動かすことができます。
もちろん、私も例外ではありません。
小学校入学以来、全校集会や体育会には必ずラジオ体操の時間がありましたし、夏休みには、毎朝近所の公園に集まって、子供会でラジオ体操をしたおかげで、何十年経っても、身体が体操の順番を覚えています。
「君が代」のように国民全員が知っている驚異的なこの体操は、一体いつ頃始まったのでしょう?
郵政博物館のウェブサイトにラジオ体操の歴史が詳しく紹介されています。
ラジオ体操は、昭和3年に天皇陛下ご即位の大礼を記念して、「国民保健体操」の名で誕生しました。
(略)当時の世相は、産業界の不況、労働条件の劣悪さ、人口の都市集中化、その上、国民の健康状態は栄養不良により欧米先進国に比べてかなり低い状態など暗い世相にうちひしがれていました。
このような状況下で、ラジオ体操は式典に呼応した記念行事の一環として、明るさを求めていた当時の国民の願いを担って登場したのです。
日本にラジオ体操の導入を推進した人物は、逓信省(ていしんしょう)簡易保険局監督課長の猪熊貞治さんと同規格課長の進藤誠一さんです。
猪熊さんは、大正12年5月に欧米の簡易保険事業を調査するために出張した時に保険会社が体操をラジオ放送に流す計画を知り、画期的な試みだと感心しました。
帰国後、『逓信協会雑誌』に「ラジオ放送による健康体操の実施」を提案し、その結果、昭和2年8月簡易保険局の会議でラジオ体操実施が決定されました。
その後、日本放送協会や文部省、生命保険会社協会に協力を依頼し、協議が進められ、昭和3年9月12日にラジオ体操の運動と伴奏曲が披露され、9月18日に名称を「国民保健体操」と決め、昭和3年11月1日放送を開始しました。
昭和7年には、より高度な運動を取り入れた「第2ラヂオ体操」を作りました。
同7月21日からラヂオ体操第2の放送が始まると同時に「夏休み全国ラジオ体操の会」も開始されました。
この体操は、目覚ましい勢いで家庭、職場にと全国津々浦々にいたるまで普及していきました。(略)
しかし、終戦となり、ラジオで全国一斉に実施するラジオ体操が軍国主義的であると連合郡総司令部から指摘され、昭和21年に放送を中止しました。
その後、国民の中にスポーツに対する関心が高まり、誰もが行える気軽な運動として、ラジオ体操の復活を望む声が多くなってきました。
そこで、簡易保険局では、ラジオ体操の復活を決定し、各方面に働きかけを行い、昭和26年に新ラジオ体操が完成し、NHKの全国放送によって放送が開始されました。
新ラジオ体操は、ラジオ体操復活の熱望があっただけに国民の間に反響を呼び、あっという間に全国に普及していきました。
翌27年には、比較的高度な技術を取り入れた職場向きの第2体操を作成し、第1体操とともに全国放送しました。これが、現在の「ラジオ体操第1・第2」です。
1928年から始まり、途中GHQにより中断させられたとはいえ、ラジオ体操は約100年もの歴史をもつ日本の素晴らしい体操なのです。
しかし、こんなに素晴らしい体操ですが、私個人的には、子供の頃から少しも好きになれないのです。
理由は、ラジオ体操の動作は単調で、またその音楽も軍隊曲のようで楽しくないのです。
私が大人から始めて、夢中になったバレエのように、ラジオ体操も、もっとロマンチックな音楽に合わせて、優雅な動作なら、きっと好きになれたのにと、わがまま勝手なことを思ってしまいます。
私が大好きなバレエのレッスンには、ある程度のルールがありますが、教える側は、受講者の技術段階に合わせて、いろいろな音楽を使い分けます。
例えば、幼児を教える時には、ディズニーやジブリ映画の主題歌のような、可愛らしい音楽、趣味の大人には、くるみ割人形など、有名なバレエ曲の一節やオペラのアリアを編曲した音楽を使ったりします。
そしてレッスンの振りも、先生は毎回、新しい振り付けを考え出して、生徒を指導します。
数学の先生がひとつの公式から、何種類もの練習問題を考えて、生徒に解かせるようなものです。
つまり、生徒の方は、一方的にレッスンを受講するだけではなく、先生が考えてきた新しい振りを、その場で素早く覚えて踊るという、実に楽しく、また恐怖の時間を過ごすのです。
なぜ楽しく恐怖かというと、あまりにも簡単な動作だとつまらないし、逆に、ややこし過ぎて覚えられないと、自分がダメ人間になった気がして、激しく落ち込みますから。
ちょっと背伸びをしないと、踊れないくらいの難易度で、一旦踊れるようになると、バレエの上達が実感できるような振りが生徒にとって理想です。
どこまでも果てしなく上達したいと願う人にとって、バレエは最高です。
バレエに熱心な生徒ほど強欲ですが、先生も同じ道をたどってきた人間なので、生徒の要望に応えることは、教える側の生きがいでもあります。
最近、私の大人バレエの生徒さんがまた増えました。
オペラのレッスンに通ってこられる方々が、バレエによって身体機能向上を図ると、良い発声につながることに気づかれたのです。
私よりもひと回りほど、先輩のお姉様方たちですが、そんなバレエ入門者の彼女たちのために、とっておきの音楽で、振り付けを考案しました。
それは、白鳥の湖の第3幕に使われるロシアの踊り「ルスカヤ」です。
白鳥の湖の「ルスカヤ」は独奏バイオリンのカデンツァから始まり、哀愁的でゆったりとした前半部分と、勇壮で速い後半部分をもつ優美な音楽で、いつか私自身が踊ってみたいと憧れていた曲です。
この「ルスカヤ」の振り付けは、白鳥の湖の主役のオデット姫のように、決定版の振りは見られず、自由裁量によるものがたくさん踊られているので、私は思い切って超基礎的な振り付けにしました。
ただし、ちょっと頑張らないと、覚えるのが難しいかも知れません。
けれども、きっとお姉様方は喜んで踊ってくださると思います。
なぜなら、お姉様方も私と同じように、ラジオ体操ではどうも身体を動かす気になれないと、おっしゃるからです。
ラジオ体操が始まった頃は、バレエはごく限られた一部の人にだけ門戸が開かれたお稽古ごとでした。
私が1995年に大人バレエを始めた頃でさえも、その傾向が残っていました。
しかし、こんなにもウェブが発達し、禁断の門戸も開放された今となっては、ラジオ体操のように、バレエが浸透する日が近いかも知れません。
そして、ウェブでも公開する私の振り付けの「ルスカヤ」が、誰かの役に立ったらいいなと思います。
2021年11月29日
大江利子
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